「本日のお会計、93万円になります」
退院の日。
会計窓口で告げられた金額に、私は一瞬、聞き間違いかと思った。
心臓の手術を受けた母は、ようやく退院できるところだった。
手術前から費用については何度も確認していた。
高額療養費制度がある。
自己負担はおよそ11万円くらいになる。
そう聞いていたから、私はその金額を基準に準備していた。
ところが、窓口の女性が差し出した請求書に書かれていたのは、
「930,000円」
だった。
私は思わず聞き返した。
「高額療養費で、11万円くらいのはずでは?」
担当者は端末を確認しながら答えた。
「保険の区分が確認できませんでしたので、今回は3割負担でのご請求です」
頭の中が真っ白になった。
「じゃあ、この場で93万円を払うしかないんですか?」
母は隣の椅子に座り、不安そうにこちらを見ていた。
退院できる喜びより、
「娘に迷惑をかけた」
という顔をしている。
私はそれが一番つらかった。
「私のせいでごめんね……」
母が小さな声で言った。
私はすぐに首を振った。
「お母さんが謝ることじゃないよ」
そして窓口でも怒鳴らなかった。
ただ、手元にあった書類を全部確認した。
保険証の情報。
入院時に提出した書類。
手術前にもらった説明書。
さらにスマホには、病院へ確認した時のメモも残っていた。
私は担当者に静かに聞いた。
「入院時に保険情報は提出しています。
記事はまだ終了していません。次のページをクリックしてください