「通るたびに、なんでこっちが気を遣わなきゃいけないの?」
そう思うようになったのは、隣人の車が新しくなってからだった。
黒い大きなミニバン。
最初に見た時は、
「大きい車を買ったんだな」
くらいにしか思わなかった。
でも、数日たって違和感に気づいた。
車の前の部分が、明らかに敷地からはみ出している。
駐車場の奥まで入れているようには見える。
それでも車体が長いのか、フロント部分が道路側に出てしまっている。
最初は少しだけだと思った。
「まあ、ギリギリ通れるし」
そう自分に言い聞かせた。
でも毎日通るたびに、こちらが減速しなければならない。
自転車の子どもが通る時も、少し避ける。
宅配の車が来ると、さらに道幅が狭く感じる。
雨の日なんて、傘を差した歩行者が通るだけでもヒヤッとする。
ある朝、私は車でその前を通ろうとして、思わずブレーキを踏んだ。
対向車が来ていたからだ。
本来なら普通にすれ違える道なのに、隣人の車の鼻先が出ているせいで、こちらがタイミングを見なければならない。
「これ、普通に危なくない?」
そう思った。
けれど、隣人トラブルは避けたい。
顔を合わせるたびに気まずくなるのも嫌だ。
だからしばらく黙っていた。
でもある日、近所の高齢の方がその前を歩いていて、車の鼻先を避けるように道路側へふくらんだ。
その瞬間、後ろから自転車が来た。
大きな事故にはならなかった。
でも見ていた私は、背中が冷たくなった。
「これは、我慢の問題じゃない」
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