郵便受けに、見慣れない白い封筒が入っていた。
差出人は、知らない不動産会社。
中を開けた瞬間、私は思わず声を漏らした。
「え、なにこれ……」
そこには、私の名前と、所有している土地の住所が印字されていた。さらに文面には、「法務局にて不動産登記情報を確認のうえ、ご連絡を差し上げました」とある。
つまり、私が頼んだわけでもないのに、勝手に登記を調べ、土地を売ってほしいと手紙を送ってきたのだ。
たしかに登記情報は誰でも取れる。違法ではないのかもしれない。けれど、突然自分の名前と住所を突きつけられ、「購入希望者がいるので売却を検討してほしい」と言われる気味の悪さは、理屈では片づけられなかった。
私はすぐに不動産会社へ電話した。
「この手紙、どういう経緯で送られたんですか」
出たのは若い営業担当だった。声は丁寧だったが、どこか慣れた様子で言った。
「登記情報を確認して、条件に合う土地の所有者様へご案内しています」
「私は売ると言った覚えはありません」
「もちろんです。ただ、先方がかなり前向きでして。
条件次第ではお得なお話かと」
その“お得”という言葉に、私は静かに息を吸った。
「いくらで考えているんですか」
担当者は少し声を弾ませた。
「周辺相場から見て、数百万円台でご提案できるかと」
私は笑わなかった。
「5億円なら考えます」
電話の向こうが、数秒止まった。
「ご、5億ですか?」
「はい。突然こちらの情報を調べて手紙を送るほど熱心な購入希望者なら、それくらい本気なんですよね」
記事はまだ終了していません。次のページをクリックしてください