高級寿司店のカウンターで、孫が「タマゴをください」と無邪気に注文した瞬間だった。
隣に座っていたスーツ姿の男が、露骨に舌打ちをした。
「卵ばっかり頼みやがって。ここは貧乏人が来る店じゃないんだよ。一流企業に勤める俺らが来る場所なんだ」
吐き捨てるような声に、店内の空気が凍りついた。
私は鈴木英子。地元で三十五年続く「スーパー鈴木」の副社長だ。
夫が義父の八百屋を継ぎ、惣菜や寿司まで扱う店へと育て上げた。私はレジに立ち、品出しをし、湿布を貼りながらでも店を守ってきた。預金も、取引も、決して小さくはない。だがその日、私はただの「孫を連れた祖母」だった。
息子夫婦に頼まれ、孫娘のもえを預かっていた。結婚式に出席するため、子どもは連れていけないという。ご褒美にと連れてきたのが、近所で長年付き合いのある大将の寿司店だった。
「回ってないね、おばあちゃん」
緊張気味のもえに、「好きなものを頼んでいいのよ」と言うと、迷いなく「タマゴ」と答えた。三回続けてタマゴを頼んでも、私は微笑ましく見守った。大将の焼く卵は自慢の一品だ。甘さと出汁の加減が絶妙で、私の店でも同じ仕入れ先を使っている。
だが男は、それが気に入らなかったらしい。
「貧乏臭いんだよ。スーパーの寿司でも食ってろ」
胸元の社員証を見せびらかしながら、「俺は都内の大手銀行勤務だ」と誇らしげに名乗った。確かに誰もが知る都市銀行だった。
もえが不安そうに私を見る。
「おばあちゃん、他のにした方がいいの?」
その一言に、胸が締め付けられた。
「気にしなくていいのよ。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=ijsVBrB8UpE,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]