その瞬間、私は本気で警戒した。
家のインターホンが鳴ったわけでもない。
宅配便でもない。
ましてや友人でも家族でもない。
見覚えのない男性が、当たり前のような顔で玄関のドアを開け、そのまま靴も脱がずにキッチンへ入ってきた。
「……え?」
頭の中が一瞬、真っ白になった。
男性は部屋をぐるっと見回しながら、
「ふーん」
と小さくつぶやいた。
まるで家の内見でもしているような態度。
私は心臓がドクドク鳴っていた。
(何この人……?)
(強盗?)
(いや、でも普通すぎる……)
怖かった。
追い出したい気持ちはあった。
でも、もし刺激して逆上されたら……。
そう考えると、強く言葉が出なかった。
すると男性は突然こちらを見て言った。
「コーヒーくれ」
……え?
一瞬、耳を疑った。
初対面の知らない人が、人の家に勝手に入り込んで、最初の一言が「コーヒーくれ」?
普通なら怒る場面だ。
でも、その時の私は恐怖の方が勝っていた。
「……分かりました」
そう答えて、震える手でコーヒーを淹れた。
キッチンにはいつものコーヒー器具。
毎朝使っている道具。
お気に入りのカップ。
普段なら落ち着く空間なのに、その日は知らない男性がいるだけで別世界のようだった。
男性はコーヒーを受け取ると、ゆっくり一口飲んだ。
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