午前2時すぎ、福岡の古い薬局へ9歳の桜が駆け込んだ。
背中には高熱を出した3歳の弟・ハルト。
雨の中を20分近く走ってきた桜は、解熱シロップと風邪薬をカウンターへ置き、布袋から古びた黒いカードを取り出した。
「お父さんにもらいました。ハルトの命が危ない時だけ使えって」
父・誠は1か月前に亡くなっていた。
65歳の薬剤師・緑がカードを端末へ通すと、代金ではなく「緊急コード」と内線番号が表示された。
電話すると、低い男の声が言った。
「その子たちを絶対に帰さないでください。今から向かいます」
約10分後、薬局前に黒塗りの車が3台止まった。
現れたのは、杖をついた72歳の健造だった。
健造は桜を見るなり、
「お父さんはどこにいますか」
と尋ねた。
「先月、亡くなりました」
桜が答えると、老人は杖を握ったまま言葉を失った。
実は健造は、亡き誠の父親だった。
誠は12年前、家が決めた縁談を拒み、「自分の人生は自分で決める」という置き手紙だけ残して家を出ていた。
健造は九州で複数の旅館を経営する家の人間だったが、息子との関係を修復できないまま12年が過ぎていた。
そしてようやく誠の死を知り、福岡でその足跡を探している最中だった。
あの黒いカードは、誠が最後の手段として娘に残した家の緊急用カードだったのだ。
その夜、ハルトは救急搬送され、一時は危険な状態だったものの、治療によって回復した。
だが問題はそこで終わらなかった。
桜とハルトが健造の血縁だと知ると、親族たちが相続や後継者を意識して動き始めた。
「2人を別々の環境で育てた方がいい」
そんな話まで出た。
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