俺は34歳の文彦。
亡くなった祖母から受け継いだ、
小さなパン屋を1人で営んでいる。
子どもの頃、
共働きだった両親に代わってよく祖母の家へ預けられていた。
祖母の家はパン屋とつながっていて、
いつ行っても焼きたてのパンの匂いがした。
売れ残ったパンがあると、
「まだまだおいしいから食べな」
と笑って渡してくれた。
中でも俺は、
祖母の素朴なコッペパンが大好きだった。
大学生の時、祖母が体調を崩した。
「そろそろ店を畳む時かね」
寂しそうに言う祖母を見て、
俺はその場で決めた。
「俺が継ぐよ」
それから大学へ通いながら、
祖母のもとでパン作りを学んだ。
修業は厳しかった。
それでも数年後、
「もう私から教えることはないよ」
と言われた日は、2人で泣いた。
その後、祖母は再び体調を崩し、
店へ戻ってくることなく亡くなった。
だから俺にとってこの店は、
ただの商売ではなかった。
祖母の味を残したい。
その思いだけで続けていた。
だが1年ほど前から、
売上が落ちていた。
原因の一つは、
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