私は佐藤。
小さな「ビストロデイズ」という店で、
料理長兼オーナーをしている。
隣には、
うちよりずっと立派な高級イタリアンがあった。
ある日、その店の前で
車椅子の母親と小さな男の子が困っていた。
「すみません。うち、エレベーターがなくて」
高級店のスタッフはそう言って、
2人の入店を断っていた。
母親は、
「予約の時にお伝えしたのですが……」
と戸惑っていた。
しかもその日は、
男の子の誕生日だった。
私は思わず声をかけた。
「あの、うちでよければどうですか?」
うちも2階だったが、
力のあるスタッフと一緒なら車椅子で案内できる。
隣の店主には、
「目の前で客を取るのか」
と言われた。
でも、そんなつもりではなかった。
「誕生日を悲しい思い出にしてほしくないだけです」
男の子は、
「こっちのお店がいい」
と笑ってくれた。
私たちは普段通り料理を作り、
最後にはケーキも出した。
「こんなにおいしいご飯、初めて」
その一言だけで十分だった。
ところが帰り際、母親は言った。
「これは恩返しをしないといけませんね」
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