部屋の扉を開けた瞬間、そこにあったのは、人が丁寧に暮らしていた痕跡ではなく、何もかもが崩れてしまったあとの空気でした。
汚れた布団。床に散らばる酒の缶や瓶。物が積み重なり、足の踏み場もあやしい室内。見るからに、生活を立て直す力を失っていたことが伝わってきます。
けれど、その部屋がただのゴミ屋敷ではなかったことは、電気をつけてすぐに分かりました。
部屋のあちこちに、亡くなった奥様と思われる写真が飾られていたのです。棚の上にも、壁際にも、アルバムの中にも、2人で過ごした日々の記録が残されていました。
写真に写る表情はどれも穏やかで、本当に仲の良い夫婦だったのだろうと想像させるものばかりでした。
だからこそ、奥様を亡くしたあと、この部屋がこうなってしまったのではないか――そう考えずにはいられません。
依頼者から詳しい事情を聞けなかったとしても、部屋の状態そのものが、故人の心の崩れ方を静かに物語っていたのだと思います。
愛する人を失ってから、食事も、片付けも、身の回りのことも、少しずつどうでもよくなっていった。
誰かに助けを求めることもできないまま、時間だけが積もっていった。
そんな孤独が、床の散らかり方ひとつにもにじんでいたのではないでしょうか。
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