村井亮太、23歳。
地方大学を出て、東京の大手企業を目指して就職活動をしていた。
自分には行動力がある。
譲るより、取りに行く人間が勝つ。
そう本気で信じていた。
東京での最終面接を控えた朝、亮太は駅まで走っていた。
指定席は取っていなかったが、どうせ何とかなると思っていた。
車内に入ると、一つだけ空いて見える席があった。
荷物は置かれていたが、人はいない。
「少しくらい大丈夫だろ」
そう考えて座ったところへ、車掌が来た。
さらにしばらくして、年配の男性が現れた。
その席の正規の利用者だった。
だが亮太は、
「面接があるんで」
「誰か来たらどけばいいと思った」
と開き直った。
男性は怒鳴りもせず、静かに言った。
「指定席は、買った人の権利だけではありません。約束でもあるんです」
それでも亮太は席を立たなかった。
男性は最後まで感情を荒らげず、
「若い人には時間の方が大切でしょうから」
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