「今日でクビだ」
総務部長の黒川正臣がそう言い放った瞬間、会議室の空気が凍りついた。
派遣社員の日村さゆみは、膝の上で手を握りしめたまま、しばらく声を出せなかった。
「契約は更新しない。明日から来なくていい」
隣に座る正社員の白鷺瑠璃は、薄い笑みを浮かべていた。
「仕方ないわよ。派遣って、そういうものだから」
さゆみは八ヶ月間、誰よりも早く出社し、備品管理、会議準備、資料作成、来客対応まで黙々とこなしてきた。
母が施設で暮らしており、その費用を払うためにも、この仕事を失うわけにはいかなかった。
それでも黒川は、彼女の事情など見ようともしなかった。
「業務態度に問題がある。外回りの戻りも遅いし、報告も不十分だ」
「具体的に、どの業務でしょうか」
さゆみが震える声で尋ねると、黒川は机を指で叩いた。
「派遣の君が、納得する必要はない」
その言葉に、さゆみの胸は冷たく沈んだ。
思い返せば、理不尽は毎日のようにあった。
昼休みに弁当を開けば、黒川から内線で呼び出される。
自分が作った備品コスト削減の資料は、白鷺の手柄として朝礼で発表された。
それでも、さゆみは黙っていた。
「仕事を丁寧にすることだけは、誰にも奪われない」
そう自分に言い聞かせていたからだ。
そんな彼女を、食堂の窓際からいつも見ていた老人がいた。
くたびれた帽子に地味なカーディガン。
来客用バッジをつけ、コーヒーを飲みながら手帳に何かを書き留めている、どこにでもいるような老人だった。
さゆみは何度かその老人と話した。
「お嬢さんは、よく耐えているね」
「耐えているというより、働けるだけありがたいんです」
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=f64ZZvMS44E,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]