「順番でお伺いしますので、こちらでお待ちください」
レジの前に割り込んできた年配女性へ、私は普段通りに案内した。
ところが、その言い方が気に入らなかったらしい。
女性は商品カゴをレジ台へ乱暴に置いた。
「袋やお箸はお付けしますか?」
「いらない!」
私は黙って会計を済ませ、次のお客様の対応を始めた。
すると女性が横から戻ってきた。
「ちょっと、お匙をちょうだい!」
「大きいものと小さいものがあります。どちらになさいますか?」
女性は買ったグラタンを私の目の前へ突き出した。
「はぁ?見れば分かるでしょ!」
私は小さなスプーンとフォークを渡した。
ようやく帰ったと思った数分後、女性は再び店内へ入ってきた。
「オーナーの電話番号を教えなさい」
「個人の電話番号はお伝えできません」
「本当に横柄ね。じゃあ、あなたの苦情は誰に言えばいいの?」
後ろには会計を待つお客様が何人もいた。それでも女性はレジの前から動かない。
私は一度息を整え、はっきり答えた。
「私の対応についてでしたら、店舗へお申し出ください。ただ、順番のご案内は全てのお客様にお願いしています」
「客に向かって口答えするの?」
「ほかのお客様への迷惑になる行為や、従業員への威圧的な言動を続けられる場合は、今後のご来店をお断りします」
女性は「覚えてなさいよ」と言い残し、店を出ていった。
正直、少し言いすぎたかもしれないと思った。
私はすぐに、時刻、購入商品、会話の内容を業務記録へ残し、オーナーへ報告した。
その日の夜、オーナーと一緒に防犯カメラを確認した。
映像には、列を無視して割り込む姿、カゴをたたきつける動作、レジ前に居座る様子が全て残っていた。
オーナーは映像を止めて言った。
「言葉はもう少し柔らかくてもよかった。でも、あなたが一方的に謝る必要はない。従業員が暴言を我慢することまで接客ではないから」
翌日、女性から店へ苦情の電話が入った。
しかし応対したオーナーは、防犯カメラを確認済みだと伝えたうえで、順番を守らなかったことと、従業員を威圧したことを指摘した。
女性は「私は客よ」と言い張ったそうだ。
オーナーは静かに答えた。
「お客様であることは、何をしても許される理由にはなりません」
その後、店ではレジ前の案内表示を大きくし、迷惑行為が続く場合には退店を求める方針を掲示した。
あの女性が再び来店することはなかった。
あの日、私が守ろうとしたのは自分の感情だけではない。
きちんと列に並び、静かに待ってくれていたほかのお客様の時間だった。
接客には丁寧さが必要だ。
けれど、理不尽な言動にまで笑顔で耐えることが、正しい接客だとは今も思っていない。