先日の大雪の日、私の車は坂の途中で動かなくなった。
アクセルを踏んでもタイヤは空回りするだけ。後ろには車列ができ、焦れば焦るほど車体が横へ滑った。
ハザードをつけて外に出たものの、何をすればいいのか分からない。雪は容赦なく降り続き、手の感覚もなくなっていった。
その時、少し離れた場所に1台のトラックが停車した。
運転席から降りてきた男性が、雪を踏みしめながら私のところへ走ってきた。
「大丈夫ですか。アクセルは踏まず、ハンドルをまっすぐにしてください」
男性は荷台からスコップと滑り止めを取り出し、タイヤの周囲に積もった雪をかき出した。濡れた作業着の膝を雪につけ、何度も車体の下を確認してくれた。
数分後、男性の合図に合わせてゆっくりアクセルを踏むと、車はようやく雪の溝から抜け出した。
「動いた……!」
私が何度も頭を下げ、名前を聞こうとすると、男性は笑った。
「困った時はお互いさまです。気をつけて帰ってください」
それだけ言うと、仕事へ戻るようにトラックへ乗り込み、そのまま走り去った。
名前も連絡先も聞けなかった。
ただ、遠ざかるトラックの後ろに書かれた会社名だけは、必死に覚えた。
帰宅後、その運送会社を検索した。手紙と菓子折りを送ろうと思ったが、少し迷った。
仕事中に停車したことで、運転手さんが会社から注意されたらどうしよう。かえって迷惑になるかもしれない。
それでも、あの寒さの中で助けてもらった感謝を、何も伝えず終わらせたくなかった。
私は日時と場所、トラックの特徴を書き、社長宛てに手紙と菓子折りを送った。
それから約1週間後、見覚えのない封筒が届いた。
中には、社長直筆の丁寧な手紙が入っていた。
「お手紙により、弊社の野口がお役に立てたことが分かり、私としましても嬉しい限りです」
助けてくれた人は、野口さんというらしい。
手紙には、私のお礼を本人へ伝え、菓子折りも渡したこと、野口さんが照れながらも喜んでいたことが書かれていた。
私はその一文を読んだ瞬間、涙があふれた。
私の感謝は、きちんと本人へ届いていた。
そして会社は彼の行動を責めるどころか、社員の親切を一緒に喜んでくれたのだ。
次の雪に備えて、私は車に小さなスコップと滑り止めを積んだ。
数週間後、近所で車を雪にはまらせた人を見つけた時、今度は私がスコップを持って走った。
「ありがとうございます」と言われ、私はあの日の野口さんと同じ言葉を返した。
「困った時は、お互いさまです」
一人の運転手さんが雪の日に見せてくれた優しさは、手紙を通して会社へ届き、今度は私から別の誰かへとつながっていった。