「申し訳ありませんが、うちの口座は作れません」
帝都銀行新宿中央支店のロビーに、支店長・黒崎俊介の冷たい声が響いた。
目の前に立っていたのは、古びたジャンパーを着た七十八歳の老人、東道誠一郎だった。
白髪に杖、擦り切れた袖口。
その姿だけを見れば、どこにでもいる年金暮らしの老人にしか見えなかった。
しかし、東道はかつて世界的企業・東道電機を築き上げた伝説の経営者であり、帝都銀行に巨額の資産を預け続けてきた最大級の顧客だった。
彼がこの日、銀行を訪れたのは、三年前に亡くなった妻・和子の名を冠した慈善基金の口座を開くためだった。
恵まれない子供たちを支援したい。
それは、生前の妻が何度も口にしていた願いだった。
最初に応対した窓口係の田中美咲は、東道の話を聞き、心から微笑んだ。
「奥様も、きっとお喜びになると思います」
その言葉に、東道の表情はわずかに和らいだ。
だが、そこへ黒崎が現れた。
昇進を目前に控えた彼は、数字と効率だけを信じる男だった。
黒崎は東道の服装を上から下まで眺め、露骨に顔をしかめた。
「ご職業は? 年金だけですか。失礼ですが、当行は一定以上の資産をお持ちの方を対象にしております」
東道は静かに答えた。
「亡き妻の名前で、慈善基金を作りたいのです」
黒崎は鼻で笑った。
「慈善基金ですか。素晴らしいですね。ただ、そういった少額のご利用は手間ばかりかかりまして。他の銀行の方が、お客様のためになると思いますよ」
ロビーの空気が凍った。
田中は何か言おうとしたが、契約社員の立場では支店長に逆らえなかった。
東道は怒鳴らなかった。
ただ静かに書類を閉じ、立ち上がった。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=_2IX2PT402Q,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]