「二十三口座を解約? できるもんならやってみろよ」
昼下がりの銀行ロビーに、若手行員・浅村大樹の冷たい声が響いた。
目の前に立っていたのは、日焼けした作業服に擦り切れた靴を履いた老人、黒川忠治。
八十六歳の彼は、古びた通帳の束と書類ファイルを両手で抱えていた。
「すべて解約したいのですが」
黒川は丁寧に頭を下げた。
だが浅村は、通帳を見る前から鼻で笑った。
「高齢の方って、説明しても理解されないことが多いんですよ。二十三口座なんて今日中に無理です。できないなら帰ってください」
ロビーの空気が凍りついた。
新人行員の山本美琴が小さく声を上げる。
「浅村さん、その言い方は……」
「新人は黙ってろ」
浅村の一言に、美琴は唇を噛んで黙り込んだ。
黒川はその様子を静かに見つめていた。
そして、穏やかな声で言った。
「いいんですね。本当に、すべて解約しても」
浅村は苛立ったように笑った。
「だから、できるならどうぞ」
その瞬間、黒川は胸ポケットから一枚のカードを取り出した。
光沢のない漆黒のカード。
表面には銀行のロゴだけが浮かんでいる。
美琴が息をのんだ。
「それ……インフィニティ・ブラックカード……」
全国でも数人しか持たない、最上位顧客だけに発行される特別カードだった。
浅村の顔色が一気に変わる。
すぐに支店長の霧島が駆けつけ、深々と頭を下げた。
「黒川様、大変失礼いたしました」
黒川は静かに首を振った。
「私は今日、この銀行が変わったのか確かめに来ただけです」
五十年前、若き日の黒川は小さな町工場を守るため、この銀行に融資を申し込んだ。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=Ue9LmeLA-Do,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]