「ゴミみたいな会社のおばあさんよ、今すぐ百億返してみろよ」
東都銀行桜川支店のロビーに、融資課長の冷たい声が響いた。
言われたのは、土で汚れた花柄のエプロンをつけた小柄な老女だった。
名は菊代。
八十歳を越えた彼女は、両手で通帳を抱えたまま、ただ静かに立っていた。
爪の間には黒い土が残り、袖口には乾いた泥がついている。
それを見た行員たちは、まるで場違いな人間が迷い込んできたように、くすくすと笑った。
「何度来ても同じですよ。そんな格好で百億だなんだと言われても、こちらも困るんです」
融資課長は、菊代の顔を見ることもなく言い捨てた。
「返せないなら帰ってください。うちはゴミ企業の延滞相談所じゃありませんから」
その瞬間、ロビーの奥にいた若い女性行員が息をのんだ。
だが、誰も止めない。
菊代はゆっくりと顔を上げた。
怒鳴ることも、泣くこともなかった。
ただ、静かに尋ねた。
「本当に、それでいいんですね?」
融資課長は鼻で笑った。
「ええ、結構です。次に来る時は、もう少しまともな格好で来てください」
菊代は小さく頷き、そのまま銀行を出た。
彼女の背中は小さかったが、不思議と揺れていなかった。
四十五年前。
まだこの町に高い建物も少なかった頃、菊代と亡き夫は、この銀行の前に一本の桜を植えた。
「十年もすれば、誰かの役に立つ」
夫はそう言って笑った。
二人は小さな造園会社を営み、公園や学校、商店街の植え込みを整え、この町の緑を守り続けた。
雨の日も、真夏の日差しの中でも、泥だらけになって働いた。
会社は少しずつ大きくなり、やがて地域では知らぬ人のない存在となった。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=J4fZU64NNBE,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]