「今、ドアをぶつけましたよね? 修理代5万円、払ってください」
抱っこ紐を装着していた私に、男は突然そう言い放った。
昼過ぎ。
私は子どもを後部座席から降ろすため、商業施設の入口から少し離れた場所に車を停めた。
周囲には、左右合わせて20台以上の空きスペースがあった。
左後ろのドアを全開にし、子どもを抱き上げた、その時。
灰色の車が近づき、なぜか私の真横へ前向きで入ってきた。
他はガラガラなのに、車同士の間隔はわずか30センチほど。
私は子どもを守るように抱き直し、慌ててドアを閉めた。
「隣は全部空いていますよね。子どもを抱いているので、別の場所に停めてもらえませんか?」
すると男は窓を少し開け、面倒そうに言った。
「駐車場はあんたのものじゃない。俺がどこに停めようと自由だ」
腹は立った。
けれど、子どもの前で揉めたくない。
私は黙って離れようとした。
その瞬間、男が車から降り、助手席側の傷を指さした。
「これ、あんたが今つけた傷だろ」
しかし、私のドアは一度も触れていない。
「当たっていません」
そう答えると、男はスマホを向けて怒鳴った。
「嘘つくな。修理代は5万円。
払わないなら警察を呼ぶぞ」
車内から妻らしき女性まで降りてきた。
「子連れだからって、何をしても許されると思ってるの?」
二人に囲まれ、子どもは大声に驚いて泣き出した。
男は私が一人だと分かると、さらに強気になった。
私は深呼吸した。
そして、周囲の空きスペース、両車の位置、傷の状態を順番に撮影した。
「分かりました。警察を呼びましょう」
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