「駅まで一緒に歩いて行きますか?」
何気なくかけた一言が、私に大切なことを教えてくれました。
私は理容師として長年、お客様と向き合ってきました。
髪を整えること。
身だしなみを整えること。
もちろん、それも私の大切な仕事です。
でも、この日改めて感じたのは、
理容師の仕事は「髪を切るだけ」ではないということでした。
そのお客様とは、もう20年以上のお付き合いになります。
初めてご来店された頃は、今よりずっと元気でした。
会話を楽しみながら、
「いつもの感じでお願いします」
と言ってくださる姿が、今でも鮮明に覚えています。
月日が流れ、
お身体が少し不自由になられてからも、
変わらず私のところへ通ってくださっています。
正直、何度も心配になりました。
「無理をされていないかな」
「遠くから来るのは大変ではないかな」
そう思うこともありました。
でも、お客様はいつも笑顔で来店してくださいました。
ある日のことでした。
たまたま予約のキャンセルが入り、少し時間に余裕ができました。
施術を終えたお客様が帰ろうとされた時、
私はふと思いました。
「駅まで一緒に歩いて行きますか?」
すると、お客様は驚いたような表情をされました。
そして、とても嬉しそうに笑ってくださいました。
「いいんですか?」
その一言が、なぜか心に残りました。
普通なら、駅までは5分ほどの距離です。
歩けばすぐ着く場所。
私はいつもの感覚で考えていました。
しかし、その日は違いました。
お客様の歩幅に合わせて、
ゆっくり。
ゆっくり。
一歩ずつ歩きました。
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