スーパーの駐車場で、隣の車を見た私は思わず足を止めた。
タイヤの側面に、長い亀裂が走っていた。
細かなひびではない。
ゴムがめくれそうなほど深く、亀裂はタイヤの上半分まで続いている。
このまま走ったら危ない。
そう思ったものの、持ち主の姿は見当たらなかった。
勝手に車へ触れることも、ワイパーに紙を挟むこともためらわれた。
私はタイヤと駐車区画が分かる写真を撮り、すぐに店内のサービスカウンターへ向かった。
「隣の車のタイヤが、かなりひび割れています。持ち主に確認してもらえませんか」
店員は写真を見た途端、表情を変えた。
車のナンバーを館内放送で呼び出すと、数分後、買い物袋を提げた50代ほどの男性が現れた。
私は駐車場まで案内し、タイヤを指差した。
「ここです。かなり深く割れています」
しかし男性は一度見ただけで、鼻で笑った。
「古いタイヤなら、これくらい普通だろ」
さらに私をにらみ、
「人の車を勝手に撮るなんて、気持ち悪いな」
と言い放った。
腹は立った。
だが私は言い返さず、店員へ写真の撮影時刻を見せた。
そのとき、同じ敷地内にあるカー用品店の整備士が、店員に呼ばれてやって来た。
整備士はタイヤへ近づくと、触れずにライトを当てた。
そして低い声で言った。
「これは走行を勧められる状態ではありません」
男性の笑顔が消えた。
整備士が確認したのは、私が気づいた1本だけではなかった。
反対側へ回り、もう1本のタイヤを指差した。
そこにも同じような亀裂があり、一部は大きく膨らんでいた。
「この状態で高速道路へ入る予定でしたか」
その問いに、男性は黙り込んだ。
助手席から、小学生くらいの男の子が顔を出した。
「お父さん、今日これでおばあちゃんの家に行くんだよね」
片道150キロ。
しかも高速道路を使う予定だったという。
整備士が交換の必要性を説明すると、男性はようやく買い物袋を地面へ置いた。
そして私の前まで来ると、視線を落とした。
「さっきは悪かった。教えてもらわなかったら、そのまま走っていた」
タイヤはその場で交換され、車は約2時間後に出発した。
帰り際、男の子が窓を開けて私に手を振った。
私は何かを褒められたかったわけではない。
知らない人の車でも、危険に気づいたなら店員や管理者へ伝える。
余計なお世話と言われても、何も言わずに見過ごすよりずっといい。
あの亀裂を見た瞬間に足を止めた自分の判断は、間違っていなかった。