新幹線に乗り込んで、ようやく座れると思った瞬間でした。
私たち夫婦が予約していた指定席に、見知らぬ若い夫婦が座ろうとしていたのです。
「すみません、その席は私たちの指定席です」
私は切符を見せながら、落ち着いて声をかけました。
すると若い男性は一瞬こちらを見て、少し困ったような顔をしました。
「え?でも……」
隣にいた女性が、お腹に手を当てながら言いました。
「私、妊娠してるんです」
その一言で、車内の空気が少し変わりました。
周りの乗客もこちらを見る。
まるで「妊婦さんに席を譲らない冷たい人」と言われているような雰囲気でした。
でも、私は何も間違ったことはしていません。
この席は自由席ではありません。
数日前から予定を決めて、料金を払って予約した指定席です。
私はもう一度、静かに伝えました。
「妊娠されていることは大変だと思います。でも、この席は私たちが予約した席です」
すると女性は少し不満そうな表情になりました。
「でも、少しくらいいいじゃないですか」
「妊娠している人に譲るのが普通じゃないですか?」
私は驚きました。
妊娠していることは、もちろん大切にされるべきことです。
でも、それと他人の予約した席に座ることは別の話です。
私は夫と目を合わせました。
夫も小さく首を横に振りました。
「申し訳ありませんが、無理です」
そう伝えると、若夫婦は一度離れていきました。
私は少し嫌な気持ちになりながらも、自分の席に座りました。
すると約10分後。
先ほどの男性が戻ってきました。
今度はなぜか笑顔でした。
「実はですね……」
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