深夜零時を少し過ぎた頃、夫のヒロシから短いメッセージが届いた。
「まどかが陣痛で病院に入った。今夜は戻らない」
私は台所の古い椅子に座ったまま、しばらくその文字を見つめていた。
まどか。
夫の愛人であり、もうすぐ子どもを産む女。
そして義母のキミ子さんが、私を追い出してでもこの家に迎えようとしていた相手だった。
私は返信を打った。
「わかりました。これで最後にします」
送信ボタンを押した瞬間、不思議なほど心は静かだった。
私とヒロシが結婚して十二年。
埼玉の古い住宅街にある夫の実家で、私は義母と同居してきた。
朝は誰より早く起き、食事を作り、洗濯をし、仏壇の花を替えた。
それでも義母はいつも言った。
「子どもも産めない嫁を置いてやっているのよ」
私はずっと黙っていた。
結婚して数年後、不妊治療の病院で医師から「奥様だけの問題ではありません」と言われたことがあった。
けれど私は夫の面子を守るため、その事実を誰にも言わなかった。
その沈黙が、やがて私自身を縛る鎖になるとも知らずに。
ヒロシの帰宅が遅くなったのは、一年ほど前からだった。
会議、出張、取引先との食事。
言い訳は毎回違ったが、ワイシャツの袖についた桃色の口紅と、背広から出てきた産婦人科の診察券が、すべてを物語っていた。
相手の名は、まどか。
彼女は妊娠していた。
義母はその事実を知りながら、私にだけ隠していた。
ある夜、まどか本人から電話があった。
「奥様には申し訳ないと思っています。でも、ヒロシさんを自由にしてあげてください」
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=feeygedWQMw,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]