夕暮れの光がリビングの床に長い影を落としていた。
私は五歳の息子、勇太が積み木で遊ぶ姿を見つめながら、静かに夫の帰りを待っていた。
玄関のドアが開いたのは午後九時過ぎ。
夫のヒロシは「仕事が長引いた」と言ったが、スーツからは私の知らない甘い香水の匂いがした。
「お帰りなさい。夕飯、温め直すわね」
私はいつも通り微笑んだ。
けれど心の中では、すでにいくつもの違和感が線になり始めていた。
遅い帰宅。
スマホを隠す仕草。
ワイシャツについた薄い口紅。
口座から消えた大きなお金。
そして、ホテルのマッチ箱。
私は感情的に問い詰めることはしなかった。
勇太を守るためには、怒りより証拠が必要だと分かっていたからだ。
ヒロシは最近、私を見下す言葉を隠さなくなっていた。
「お前は家で子どもを見てるだけだから楽でいいよな」
「俺みたいな管理職の苦労は分からないだろ」
そのたびに私は黙って頷いた。
夫は私が何も気づいていないと思っていた。
しかし私は、クレジットカードの明細を一つずつ保存していた。
高級レストラン。
ビジネスホテル。
ベビー用品店。
そして、宮崎由紀子という名前で予約された産婦人科の支払い。
由紀子。
それが夫の愛人の名前だった。
ある夜、酔って帰ってきたヒロシは、自分から秘密をこぼした。
「明日、病院で性別発表なんだ。由紀子のお腹の子、きっと男だぞ」
私はお茶を出しながら、表情を変えなかった。
ヒロシは得意げに笑った。
「さやかは何も知らない。離婚届だって俺がうまく処理する。証拠なんてないからな」
その言葉を聞いた瞬間、私の中で最後の迷いが消えた。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=aaIkvLg-kOs,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]