「せっかくだ。英語で何か言ってみろよ。どうせ無理だろうがな」
帝都銀行新宿支店の会議室に、副支店長・神田の乾いた笑いが響いた。
壁際の小さな椅子に座っていた派遣社員、朝倉夏はゆっくりと顔を上げた。
外資ファンドとの重要会議。
相手はCEOのジェームズ・ホルト。
支店の命運を左右する案件だというのに、神田はその場を利用して夏に恥をかかせようとしていた。
「派遣さんの英語、聞いてみたいですね」
若手行員の何人かが気まずそうに目を伏せた。
木村誠だけが、悔しそうに拳を握っていた。
夏は四ヶ月前、この支店に派遣として入った。
誰よりも早く出社し、英文契約書を整理し、会議資料を整え、議事録を正確に残した。
しかし、彼女の名前が表に出ることは一度もなかった。
神田はいつも彼女を「派遣」と呼び、雑用係のように扱った。
「どうせ英語なんて分からないだろう」
廊下の向こうで笑われても、夏は何も言い返さなかった。
かつて大手証券会社で働いていた頃、彼女は外資系ファンドとの契約書に潜む危険な条項を見抜いたことがあった。
だが、その功績は上司に奪われ、逆に存在しないミスを押しつけられ、退職へ追い込まれた。
それ以来、夏は自分が帰国子女であることも、金融契約に強いことも隠して生きてきた。
目立てば傷つく。
そう思っていたからだ。
だが今回、ホルト案件の英文契約書を読んだ瞬間、彼女の中で眠っていた感覚が目を覚ました。
第七条の代理権限。
第十二条の報酬振込先。
神田が銀行を代表して署名できるはずの根拠が、社内文書のどこにも存在しない。
さらに報酬の振込先は、銀行名義ではなく不自然な外部口座だった。
記事はまだ終了していません。次のページをクリックしてください
引用元:https://www.youtube.com/watch?v=E_3RJGrChL0,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]