夜の九時、電話が鳴った。
受話器の向こうで、六つ上の兄・高一がかすれた声で言った。
「悪いが、五十万貸してくれんか」
六十八歳の信子は、しばらく言葉を失った。
四十年以上、信用金庫で集金の仕事をしてきた彼女には分かっていた。
お金を借りる電話は、たいてい夜にかかってくる。
昼間はまだ、プライドが踏ん張っている。
けれど夜になると、人は隠していた不安を抱えきれなくなるのだ。
高一は、段ボール会社で営業部長まで勤めた男だった。
退職金も受け取り、貯金も合わせて二千三百万円あると、七年前の法事で笑っていた。
「老後二千万円問題なんて、うちはお釣りがくる」
その兄が、今、妹に五十万円を頼んでいる。
信子はすぐには貸さなかった。
「明日、そっちへ行く。通帳を見せて」
翌日、兄の家は見た目には何も変わっていなかった。
庭は手入れされ、玄関も磨かれ、車も二台あった。
だが、台所で義姉の光恵がお湯を沸かしているのを見て、信子は胸騒ぎを覚えた。
給湯器が十日前から壊れていたのだ。
さらに、光恵の髪の根元には白髪が目立っていた。
長く美容院に行っていない証拠だった。
「通帳を見せて」
高一は怒った。
「妹に通帳を見せろと言うのか。わしは物乞いじゃない」
しかし、光恵が震える手で通帳の束とカードローンの明細を出した。
残高九十万円。
月々二万五千円返しているが、その半分近くは利息に消えていた。
信子は電卓を叩いた。
年金は夫婦で月二十一万円。
一方で、保険、車二台、新聞、スマホ、冠婚葬祭、交際費、食費を合わせると、支出は月三十万円。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=s77HBbwDoGY,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]