歯医者の受付で、私は震える手でお薬手帳を差し出した。
「すみません……現在、うつの治療中でして……」
「主治医から歯科治療で麻酔を使っても問題ないと許可をもらっています」
「治療の予約をお願いしたいのですが……」
私はできるだけ丁寧に伝えた。
なぜなら、以前の私は病気のことを誰かに話すのが怖かったから。
「怠けていると思われたらどうしよう」
「面倒な人だと思われたらどうしよう」
そんな不安を抱えながら、それでも勇気を出して相談した。
すると――
受付の女性が突然、大きな声を出した。
「えっ?うつぅ!?」
待合室に響くほどの声だった。
私は一瞬、何を言われたのか分からなかった。
周りの視線が集まる。
胸がぎゅっと苦しくなった。
「は、はい……」
小さく返事をすると、受付の女性は続けた。
「うつだったら、体調不良とかで休まれたり遅れられたりしたら、他の患者さんの迷惑になるんですよねぇ」
その瞬間、頭の中が真っ白になった。
「迷惑……?」
私はその言葉だけが何度も響いた。
病気になりたくてなったわけじゃない。
治したくて病院に通っている。
そして今日は、歯の治療を受けるために勇気を出して来た。
なのに、最初に言われた言葉が「迷惑」だった。
涙が出そうになった。
でも、私は怒鳴らなかった。
ただ静かに、お薬手帳をしまった。
「そうですか……」
「では、他をあたります」
「こちらがかかりつけだったので、お願いできればと思ったのですが……」
そう伝えて帰ろうとした。
すると受付の女性は少し慌てた様子で言った。
「……そこまでは言ってませんけど?」
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