玄関前の防犯カメラを確認した瞬間、私は思わず息をのんだ。
そこには、黒い服を着た見知らぬ男性が映っていた。インターホンを鳴らすわけでもなく、玄関先に立ち、家の中をうかがうように顔を近づけている。片手には白い箱のようなもの。配達員なのか、近所の人なのか、それともまったく別の目的なのか、すぐには分からなかった。
場所は群馬県伊勢崎市の住宅街。
普段は静かな場所だからこそ、その映像は余計に気味が悪かった。
夫に見せると、顔色が変わった。
「これ、知り合いじゃないよな?」
「知らない。荷物の予定もない」
怒りで今すぐ近所に言いふらしたくなった。でも私は、そこで一度手を止めた。感情だけで動けば、こちらが不利になる。まずは証拠を残すべきだと思った。
私は防犯カメラの映像を保存し、日時をメモした。玄関周りを確認すると、ポストには不在票もチラシもない。門扉に傷はなかったが、ドアノブ付近にうっすら手の跡のようなものが残っていた。
翌日、近所の人に静かに聞いて回った。
「昨日の午後、このあたりで黒い服の男性を見ませんでしたか?」
すると向かいの奥さんが言った。
「うちにも来たわよ。何かの営業かと思ったけど、名乗らずに帰ったの」
さらに別の家でも同じような話が出た。どうやら我が家だけではなかった。
私はすぐに警察相談専用窓口へ連絡し、防犯カメラの映像があることを伝えた。対応した警察官は、「個人で直接追及せず、映像と日時を保管してください」と落ち着いて説明してくれた。
その日の夕方、夫が近隣の防犯カメラを確認してくれた家から連絡を受けた。
「同じ時間帯に、白い車が停まっていました」
映像には、男性が数軒を回った後、その車に戻る姿が残っていた。車の一部と時間帯が分かったことで、話は一気に進んだ。
数日後、警察から連絡があった。
男性は、正式な許可を得ずに個別訪問をしていた営業関係者だったという。本人は「案内のつもりだった」と説明したらしいが、名乗らず、玄関先をのぞくような行動をしていたことについて、厳重に注意されたとのことだった。
後日、その会社の責任者から謝罪の電話が入った。
「不安にさせる行動を取り、大変申し訳ありませんでした。今後、この地域への訪問方法を見直します」
私は静かに答えた。
「営業かどうかより、名乗らず家の中をうかがうような行動が問題です。次に同じことがあれば、すぐに通報します」
それ以降、その男性が近所に現れることはなかった。
最初は怒りで頭がいっぱいだった。でも、感情任せに晒すより、映像、時間、近隣証言をそろえた方がずっと強かった。
防犯カメラは、ただの記録ではない。
家族を守るための、静かな証拠だった。