その日、店内はいつも通り静かだった。
棚には、手縫いの革小物が並んでいた。財布、キーケース、スマホケース、ミニバッグ。ひとつひとつ革を選び、糸の色を合わせ、時間をかけて作ったものばかりだ。
昼過ぎ、若い女性が一人で入ってきた。店内をざっと見回し、スマホを構える。
「素敵なお店ですね。写真撮ってもいいですか?」
「構いませんよ」
「SNSに載せてもいいですか?」
「構いませんよ」
そこまでは、ごく普通のお客様だと思っていた。ところが女性は、少し胸を張るようにして言った。
「私、フォロワー2万人くらいいるんですよ」
私は「そうですか」とだけ返した。宣伝してくれるならありがたい。でも、作品を見る前からフォロワー数を出されると、少しだけ違和感があった。
女性はショーケースの前に立ち、今度は意味ありげに笑った。
「私にどれか持たせてくれたら、バズるかもしれませんよ?」
私は一瞬考えた。持って写真を撮りたい、という意味だと思ったのだ。
「ショーケース開けますので、ご自由にお手に取って見てください」
すると女性の顔が止まった。
「はい?」
「お好きなのをご自由に。傷がつかないようにだけお願いしますね」
女性は眉をひそめた。
「いや、わからんかなぁ?」
「はい?」
「もういいです」
そう言い残し、女性は店を出ていった。外では店の前で自撮りをして、そのまま去っていった。
私はしばらく考えた。もしかして、商品を無償で提供してほしい、という意味だったのか。もしそうなら、私の返事は間違っていたのだろうか。
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