本社ビル四十二階、戦略投資部。磨き上げられた床とガラス張りの会議室が並ぶそのフロアは、「選ばれた人間だけが立てる場所」と社員の間で囁かれていた。
その朝、地味なグレーのスーツを着た女性が静かにエレベーターを降りた。彼女の名前は真木(まき)。地方支部から本社へ異動してきたばかりの社員だった。
受付で手続きを終えた直後、背後からヒールの音が響く。
「あなたが今日から来る人?」
振り向くと、鋭い視線の女性が立っていた。戦略投資部部長――細音寺(さいおんじ)。ハーバード大学MBAという華々しい経歴で、本社でも一目置かれる存在だ。
真木が丁寧に頭を下げると、細音寺は名札に目を落とした。
「真木……高卒、一般職?」
一瞬の沈黙のあと、彼女の口元がゆっくり歪む。
「へえ。高卒の部下とか初めてよ。バカは何もしないでね。」
会議室に乾いた笑いが響いた。周囲の社員は一瞬手を止めたが、誰も口を挟まない。
「重要な資料には触らないで。数字が汚れるから」
言い捨てると、細音寺はヒールを鳴らして去っていった。
真木は何も言わず、静かに頷くだけだった。
それから三か月。
真木に与えられる仕事は、コピー、データ入力、会議室の準備ばかりだった。
「余計なことはしないで。あなたは言われたことだけやればいいの」
細音寺の言葉通り、部署の中核業務に関わることは一切なかった。
だがその頃、部署はある案件で慌ただしくなっていた。新興企業への大型投資案件――総額120億円。
成功すれば部署の評価は跳ね上がる。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=XoAAe5Z15o0,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]