「タクシーなしでどうしろって言うのよ」
そう笑いながら言うと、兄嫁の若菜さんはタクシーの扉を閉めるよう運転手に伝えた。
「あの人は乗らないんで、車出しちゃってください」
私を置いて、タクシーは走り去っていった。
窓越しに見えたのは、ゲラゲラと笑う兄夫婦の顔だった。
「あっそ」
私はため息混じりに笑い、そのまま歩き出した。
私は在宅でデザインの仕事をしながら、両親と3人で暮らす30代。
兄は結婚を機に、家族とはほぼ疎遠になっていた。
理由は、兄が元妻を裏切って浮気し、浮気相手だった若菜さんと再婚したことだった。
元妻のゆり香は私の親友で、今も交流が続いている。
両親も彼女のことを実の娘のように可愛がっていた分、兄への失望は大きかった。
若菜さんは両親には媚びを売る一方、私にはあからさまに冷たかった。
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