私がその電話を受けたのは、夕食の支度をしている最中だった。
「もしもし、奥様でしょうか。こうへい君が勤めている会社の上司、森岡と申します」
突然の連絡に、私は包丁を持った手を止めた。
「いつも主人がお世話になっております。どうされましたか?」
「実は、耕平さんがここ一ヶ月ほど会社に来ていないんです。何かご存じありませんか?」
耳を疑った。
「え……来てない? いえ、主人は毎朝決まった時間に家を出て、会社に向かっているはずです」
「そうですか……ですが、出社してきていないんですよね」
森岡さんの言葉は丁寧だったが、その内容はあまりにも不穏だった。私はその場で言葉を失った。夫は毎朝きちんとネクタイを締め、同じ時間に家を出る。なのに会社には行っていない? 一体どこへ消えているのか。
頭に浮かんだのは、一ヶ月ほど前の夫の誕生日だった。
その日は私が、少し手間をかけて夫の好きな料理を並べ、部屋の電気を消して待っていた。帰宅した耕平は暗いリビングに気づかぬまま入ってきて、私がクラッカーを鳴らすと、本気で驚いた顔をした。
「誕生日だってこと、すっかり忘れてたよ」
「私がいるから、ちゃんと思い出させてあげるよ」
あの夜は久しぶりに笑い合い、酒も進み、平和そのものだった。だからこそ、そこから歯車が狂い始めたなんて、その時は思いもしなかった。
翌朝、私は夫の身支度を手伝っていて、妙なことに気づいた。いつもは使っていない、見慣れない香水の匂いがしたのだ。
「香水、変えたの?」
「会社の人にもらったんだよ。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=20oekDSZPbs,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]