中村紗希、五十一歳。商店街で小さな弁当屋「紗希屋」を営み、再婚相手の中村達也(薬剤師)と穏やかな新婚生活を送っている――はずだった。
元日の朝、私たちは手土産を抱えて義実家の玄関に立った。扉が開くなり、義母は「入るなら早く。寒いんだから」とだけ言い、祝いの言葉はなかった。リビングの奥、暖房の当たる特等席には義父、医師の義兄・雅彦、その妻・律子と息子の健太がずらり。
私と達也に示されたのは、出入り口に近い端の席。冷気が足元を舐める。
「明けましておめでとうございます」
私が頭を下げても、雅彦は視線だけで笑った。
「弁当屋さんも来たんだ。ご苦労さま」
テーブルには立派なおせちと刺身、煮しめ。黒豆の艶まで眩しい。けれど――私たちの前だけ、何も置かれない。義母が台所から運んできたのは、鍋。ふたを開けると、白い湯気の中に雑炊が揺れていた。
「……母さん、俺たちの、おせちは?」
達也が恐る恐る聞く。
義兄・雅彦が箸を止め、わざとらしく笑った。
「おせちは家族分だけ。ま、分かるだろ?」
律子も口元を隠してクスクス笑い、義母は当然のように頷く。
家族分だけ。
つまり、私は家族じゃない。達也ですら“家族枠”から外されている。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=i5mTx4cDBBE,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]