人気のない山道で、白い車のドアがすべて開いていた。
故障か、事故か。
心配になって速度を落とした瞬間、路肩に転がる古タイヤと、散乱した発泡スチロールが目に入った。
車の脇には、荷物を抱えた男。
こちらに気づくと、一瞬だけ目が合った。
「何してんや!」
そう声をかけようとした途端、男は車の陰に素早く身を隠した。
あまりに分かりやすい反応だった。
私は窓を開けかけたが、すぐに手を止めた。
山道に人影はない。相手が1人とは限らないし、車の中に何があるかも分からない。
不用意に近づく必要はない。
そのまま通り過ぎ、十分に距離を取ってから安全な場所に停車した。
確認したのは、ドライブレコーダーの映像だ。
白い車のナンバー。
開け放たれた左右のドア。
路肩に積まれたタイヤや家庭ごみ。
そして、荷物を下ろしていた男の姿。
時刻と場所も記録されていた。
私は警察に電話した。
「山道で、不法投棄していると思われる車を見ました。車の特徴とナンバー、場所が分かります」
担当者は、目撃した時間と道路の位置を丁寧に確認した。
「相手に接触せず離れたのは、適切な判断です。
映像は保存しておいてください」
その言葉を聞いて、ようやく肩の力が抜けた。
数日後、警察から折り返しの連絡があった。
現場には、古タイヤ4本、発泡スチロール、壊れた収納ケースなどが残されていたという。
さらに、以前から同じ山道で似たごみの投棄が繰り返され、近隣住民から相談が寄せられていたことも分かった。
「映像とナンバーから、車の使用者を確認できました」
男は当初、「落とした荷物を拾っていただけだ」と説明したらしい。
しかし、ドライブレコーダーには、荷物を車から運び出す様子が映っていた。
加えて、捨てられた段ボールから、男につながる配送伝票の一部も見つかった。
言い逃れは通らなかった。
男は不法投棄を認め、警察と自治体の指導のもと、自分が捨てたごみを回収することになった。
数日後、再びその山道を通ると、路肩はきれいに片づけられていた。
新しく設置された看板には、「不法投棄を発見した場合は通報してください」と書かれていた。
誰もいないと思ったのだろう。
見つかっても、車の陰に隠れれば済むと思ったのかもしれない。
けれど、山道が静かだからといって、やったことまで消えるわけじゃない。
直接怒鳴らなくてもいい。
危険を避け、記録を残し、然るべき場所に伝える。
それだけで、「誰にも見られていない」という身勝手な思い込みは、崩れることがある。