「母子家庭なんだから、子どもに我慢させるのは仕方ないでしょ」
そう言われた日のことを、私は10年経った今も忘れられない。
息子と2人きりの生活が始まったとき、通帳の残高は心細い数字だった。
昼は事務の仕事。夜は飲食店で片づけ。休みの日には、スーパーの特売を回った。
「お母さん、今日もお仕事?」
玄関でそう尋ねる息子に、私はいつも笑って答えた。
「ごめんね。帰ったら一緒にごはん食べよう」
けれど実際には、息子が眠ったあとに帰宅する日も少なくなかった。
遠足のお弁当には、冷凍食品を詰めた。
誕生日プレゼントは、何か月も前から小銭をためて買った。
運動会では、仕事の合間に駆けつけた私が最後列に立っているのを見つけ、息子は大きく手を振った。
もっと何かしてあげられたはずだ。
そう思わなかった夜は、たぶん一度もない。
高校生になった息子が「アルバイト始めてもいい?」と聞いてきたのは、春の終わりだった。
「勉強に響かないならいいけど、無理はしないでね」
本当は、少し胸が痛んだ。
私に遠慮しているのではないか。
欲しいものを買ってほしいと言えないから、自分で働こうとしているのではないか。
息子は近所の飲食店で働き始めた。
立ち仕事で足が痛い日も、「思ったより平気」と笑っていた。
初めての給料日、私はいつもどおり仕事を終えて帰宅した。
食卓の上に、小さな封筒が置いてあった。
「なに、これ?」
息子は冷蔵庫を開けたまま、こちらを見ずに言った。
「初給料。母さんに」
封筒の中には、1万円札が数枚。
そして、小さなメモが入っていた。
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