俺と妻・沙耶は、結婚5年目を迎えていた。
仕事に追われる毎日。
家事や生活の忙しさに追われ、夫婦二人だけでゆっくり過ごす時間は減っていた。
だから今回の二泊三日の温泉旅行は、俺たちにとって特別なものだった。
露天風呂に入り、久しぶりにゆっくり話した夜。
沙耶は湯気の向こうで笑いながら言った。
「こういう時間、ずっと欲しかったんだよね」
その笑顔を見て、俺は思った。
この人をずっと大切にしよう。
帰り道の車内でも、その言葉が何度も頭に残っていた。
だが――
幸せな時間は、突然終わった。
自宅近くの駅前。
深夜のコンビニに寄った帰り道だった。
薄暗い街灯の下に、一台の黒いワンボックスカーが停まっていた。
中から降りてきたのは、4人の男。
派手な服装。
金色のアクセサリー。
笑っているのに、目だけは笑っていない。
嫌な予感がした。
その予感は、すぐに現実になった。
「お、奥さん美人じゃん」
「いいなぁ、おっさん」
男たちは下品な笑い声を上げながら近づいてくる。
俺は反射的に沙耶の前に立った。
「すみません。急いでいるので」
刺激しない。
相手に隙を見せない。
それは昔、特殊な訓練を受けた時に叩き込まれたことだった。
戦うことより、戦わずに終わらせること。
それが一番大事だった。
しかし、男たちは止まらなかった。
「おっさんは帰れよ」
「奥さんだけ置いてけば?」
背中越しに、沙耶の気配が変わった。
普段の彼女なら、誰にでも優しい。
店員にも丁寧。
近所の人にも笑顔。
怒鳴るところなんて一度も見たことがなかった。
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