俺は地方都市の小さな営業所で働く運転手だった。
肩書きだけを見れば、誰も特別な存在ではない。
「車を運転する人」
多くの人は、そう思うかもしれない。
でも、俺にとってこの仕事はただハンドルを握るだけの仕事ではなかった。
毎日、違う店舗へ向かう。
そこで見るものがあった。
駐車場に入る車の流れ。
荷物を運ぶスタッフの動き。
忙しい時間帯の店内。
バックヤードで起きている小さな混乱。
現場には、数字だけでは見えない問題がたくさんある。
俺は気づいたことを、毎日ノートに書き残していた。
「この店は夕方に人手が足りない」
「配送車の導線が悪く、荷下ろしに時間がかかる」
「棚の配置を変えれば、お客様の流れが変わる」
最初は誰かに見せるつもりなんてなかった。
運転手が経営に口を出す。
そんなことを言えば、笑われると思っていたからだ。
しかし、ある出来事がきっかけになった。
半年前。
俺の担当エリアで、新店舗の出店計画が進んでいた。
会社は全国800店舗を展開する大手チェーン。
東京本社、地区本部、各店舗。
一見すると完璧な組織だった。
だが、現場では問題が山積みだった。
地区部長の大槻は、結果を急いでいた。
会議ではいつも強い口調。
「売上が悪いのは現場の努力不足だ」
「もっと危機感を持て」
そう言うだけだった。
でも俺には分かっていた。
現場が怠けているわけじゃない。
問題は、努力する方向だった。
ある日、新店舗候補地の視察に同行した。
車内で、大槻部長が電話で怒鳴っている声が聞こえた。
「店長の意識が低いんだ!」
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