「母さん、部屋ないんだよ」
その一言を聞いた瞬間、私は立ち尽くしました。
退院したばかりの体で、まだ傷の痛みも残っている。医師からは「しばらくは無理をせず、ゆっくり体を休めてください」と何度も言われていました。
それなのに、目の前にあるのは帰る場所を失ったという現実でした。
私は高橋忍、68歳。
長い人生の中で、まさか自分の息子からこんな言葉を聞く日が来るとは夢にも思っていませんでした。
入院する前、息子の直樹は優しい声で言ってくれたのです。
「母さん、心配しなくていいよ。退院したらゆっくり休めるように家を整えておくから」
私はその言葉を信じていました。
原因不明の胃腸の不調が続き、検査を受けた結果、初期の病気が見つかりました。医師の勧めで手術を受けることになり、不安でいっぱいだった私を支えてくれたのは、息子の言葉だけでした。
だから私は、退院の日を心待ちにしていたのです。
家に帰れば、いつもの部屋がある。
孫のユウトが「おばあちゃん、おかえり」と笑顔で迎えてくれる。
そんな当たり前の幸せを想像していました。
しかし、現実は違いました。
病院からタクシーで送られ、玄関前に立った私を迎えた直樹の顔には、どこか気まずそうな表情が浮かんでいました。
チャイムを押しても、なかなか扉は開きません。
五分以上経って、ようやく出てきた直樹は、視線を合わせようとしませんでした。
「母さん……ごめん。本当に悪いんだけど」
嫌な予感が胸を締め付けます。
「今、部屋が使えないんだ」
「……どういうこと?」
震える声で尋ねると、直樹は小さく息を吐きました。
「香織の母さんがしばらく泊まることになってさ」
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=CQEC8Kmaw2k,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]