「社員10万人? そんな嘘、誰が信じるんですか」
しののめ銀行初音調子店のロビーに、若い銀行員・九条玲の乾いた笑い声が響いた。
隣に立つ融資課長の神楽竜二も、金縁メガネを押し上げながら鼻で笑う。
「まさか本当に、こういう人が来るとはね。自分を大企業の会長だと思い込んでいるんでしょうか」
その視線の先にいたのは、古びた作業着姿の老人だった。
日焼けした顔。
使い込まれた安全靴。
手には丁寧に包まれた菓子折り。
誰が見ても、ただの現場作業員にしか見えない。
しかし、その老人の名前を知る者がいたなら、決してそんな態度は取れなかった。
いするぎ岩尾。
社員10万人を抱える「いするぎグループ」の創業会長である。
だが、本人はいつも通りの作業着で銀行へ向かっていた。
理由は単純だった。
世話になる相手には、自分の足で出向いて礼を伝える。
それが岩尾の生き方だった。
午前5時。
築40年を超える古い家で、岩尾は亡き妻・静江の仏壇に手を合わせていた。
「静江、今日は銀行さんへ挨拶に行ってくる」
質素な朝食を済ませ、岩尾は静かに家を出る。
近所の人たちは、彼を「腕のいい職人上がりの親方」としか知らない。
だが、彼の胸には40年以上消えない記憶があった。
若い頃、会社が倒産寸前になった冬の夜。
取引銀行から突然融資を打ち切られ、共に働いた職人たちを守れなかった苦い経験。
雪の中で何度も頭を下げたあの日、岩尾は誓った。
「筋を通さない相手とは、金の付き合いをしない」
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=zdrKR21fVWc,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]