その日は、いつもより少しだけ人の多い喫茶店だった。昼過ぎの曖昧な時間帯で、店内には仕事の合間の会社員や、買い物途中の客がまばらに座っていた。
俺は窓際の二人席に腰を下ろし、ようやく一息ついたところだった。仕事で立ちっぱなしだった足がじんわりと重く、コーヒーの香りがやけに沁みる。
そのときだった。
「すみません、妊婦なんですけど、その席どいてもらえます?」
振り向くと、そこに立っていたのは若い女だった。ゆったりしたワンピース、片手は腹に添えられている。だがその表情には“お願い”というよりも“当然”という圧があった。
俺は一瞬、周囲を見た。空席は他にもある。
「他にも席ありますけど」
そう答えた瞬間、女の目が細くなる。
次の瞬間、鈍い衝撃が脇腹に走った。
「っ……!」
小さく蹴られたのだ。驚きよりも先に、理解が追いつかなかった。
「優しくないから蹴られて当然でしょ?」
女は悪びれもせず、むしろ正論のように言い放つ。
その瞬間、俺の中で何かが切り替わった。
(この女は確か……どこかで見たことがある)
同時に、俺はポケットのスマホをそっと操作していた。
録音アプリは、最初の“席をどいて”の時点で起動している。
俺は深く息を吐き、痛みを押し殺しながら立ち上がった。
「……分かりました。譲りますよ」
そう言って席を離れながら、心の中で確信する。
(よし、証拠は揃った)
女は勝ち誇ったように座り、何事もなかったかのようにスマホをいじり始めた。
その背中を見ながら、俺は喫茶店を出た。
――翌日。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=H9GShRTuJLo,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]