「こんな数字も出せないの?大学まで出て、何を勉強してきたんだ」
入社四か月目の私に、係長は毎日のようにそう言った。
配属されたのは、経理の中でも特に忙しい部署だった。月末になると、係長の口調はさらに厳しくなる。書類を出すたびに突き返され、理由を聞いても「見れば分かるだろう」としか言われなかった。
朝、席に着くだけで胃が重くなった。
数字がひとつずれているだけで、係長は書類を机に叩きつけるように置いた。周りの先輩たちは見て見ぬふりをするだけで、誰も間に入ってはくれなかった。
同期はすでに一人辞めていた。私も何度か、辞表という言葉が頭をよぎった。
ある日、月次の締め作業が重なり、係長が珍しく声を荒げた。
「なんでこんな簡単なミスするんだよ。俺がまた上に詰められるだろうが」
その一言が、少し引っかかった。「上に詰められる」という言い方が、いつもの叱責とは違って聞こえたからだ。
翌週、たまたま給湯室で、隣の部署の先輩と話す機会があった。
「係長、最近ずいぶんピリピリしてるでしょ。部長から毎月かなり詰められてるらしいよ。
人員は減らされてるのに、目標数字だけは去年と同じなんだって」
聞けば、係長の部署は今期に入って二人減らされていた。それでも上からの要求は変わらず、係長自身が板挟みになっているらしかった。
「あの人も昔はもっと穏やかだったんだけどね」
先輩はそう言って、少し困ったように笑った。私は初めて、係長にも係長の上司がいて、係長にも余裕のない日々があることに気づいた。
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