「お父さん、あの人に騙されてるんだよ。財産目当てに決まってる」
妹は電話口で、ほとんど叫ぶようにそう言った。
七十二歳になる父が、再婚を考えていると打ち明けたのは先月のことだった。相手は、父より五つ年下の女性。名前は聞いていたが、私も妹も直接会ったことはなかった。
母が亡くなって八年。父はずっと一人で暮らしてきた。実家に顔を出すたびに、テーブルにはコンビニ弁当の袋が積まれていて、それを見るのが少しつらかった。
だから再婚と聞いたとき、私はまず「よかった」と思った。
でも妹は違った。
「お母さんのこと、もう忘れたの?家も土地もあるのに、怪しすぎるでしょ」
妹は父に電話をかけては、同じことを繰り返した。相手の女性についても、会ったこともないのに「絶対に財産目当て」だと決めつけていた。
父は何も言い返さず、ただ黙っていることが増えた。
私は気になって、その女性に一度だけ会うことにした。喫茶店で向かい合うと、彼女は静かに話し始めた。
「お父様とは、亡くなった主人の入院中に知り合ったんです。同じ病院で、毎日顔を合わせるうちに」
聞けば、彼女の夫も長い闘病の末に亡くなっていた。父が母を看取ったときの話を、病院のロビーで交わすようになったのがきっかけだったという。
「財産のことは、正直考えたこともありませんでした。むしろ、私の方が身の丈に合わない気がして、何度もお断りしたんです」
彼女はそう言って、少し目を伏せた。
その話を妹に伝えても、すぐには信じてもらえなかった。
「姉ちゃんまで丸め込まれたんじゃないの」
妹の声には、まだ強い警戒が残っていた。
数日後、父から古い診察券の束を見せられた。
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