妻は包丁を両手で持ったまま、しばらく何も言いませんでした。
義父は、その沈黙を「出来栄えに感心している」と受け取ったようです。
「なかなか上手に研げてるだろ。試しに何か切ってみろ」
その瞬間、妻が顔を上げました。
「どうして勝手に持っていったの?」
「だから、切れ味が悪そうだったからだよ」
「私は研いでほしいなんて一度も頼んでない」
「でも包丁は切れてこそだろ。前より切れるようになったんだから、別にいいじゃないか」
悪びれる様子のない義父に、妻の表情がさらに硬くなりました。
この包丁は、妻が長く愛用してきたものでした。
使ったあとはすぐに洗って水分を拭き取り、刃の状態を確かめながら大切に扱っていました。
ダマスカス鋼特有の模様も気に入っており、料理をするときにはいつもこの包丁を選んでいたのです。
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