結婚式場の控室に入った瞬間、私はすべてを理解しました。
午前九時。
私は六十二歳の誕生日を迎えたばかりの夫とともに、息子の晴れの日を祝うため会場へ向かいました。
母親として、最後まで笑顔でいたかったのです。
しかし、控室の扉を開けた瞬間、そこにいた息子、花嫁、そして花嫁の両親の視線が、私たちを一瞬だけ捉えました。
そして次の瞬間――全員が何事もなかったかのように目を逸らしたのです。
まるで私たちが存在していないかのように。
「おはよう。今日は本当におめでとう」
そう声をかけても返事はありませんでした。
息子はスマートフォンを見たまま、花嫁は鏡を見ながら化粧を直し、花嫁の両親は楽しそうに会話を続けています。
私は静かに微笑みました。
しかし胸の奥では、長い年月をかけて築いてきたものが崩れていく音が聞こえていました。
なぜなら、この息子の人生を支えてきたのは、まぎれもなく私だったからです。
私はかつて、大手百貨店の外商部長として三十五年間働いていました。
富裕層のお客様を担当し、年間売上十億円を達成したこともあります。
人の表情、言葉遣い、身につけている物。
長年の経験から、その人の本質を見抜く力を身につけていました。
だからこそ、花嫁が身につけているネックレスを見た瞬間、私は気づきました。
それは五年前、私自身が顧客へ紹介した限定品だったのです。
定価八百万円。
しかし、花嫁の父親の会社規模を考えれば、簡単に購入できる品ではありません。
借り物なのか、中古品なのか。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=WcvRAQZXies,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]