夜十時を過ぎた古い台所には、蛍光灯の小さな音だけが響いていた。
川村節子は、夕食の片付けを終え、最後の皿を水切りカゴに置いた。68歳になる節子の手は、30年間の看護師生活と家族のための家事で少し節くれ立っていた。しかし、その動きには長年培われた優しさと丁寧さが残っていた。
その時だった。
リビングから聞こえてきた息子・大介の声に、節子の手が止まった。
「母さん、悪いけど……来週から嫁の両親がここに住むことになったんだ」
一瞬、何を言われたのか理解できなかった。
続いた言葉は、さらに節子の胸をえぐった。
「だからさ……貧乏人との同居は終了ってことで」
その場にいた嫁のあやかも、冷たい笑顔を浮かべながら言った。
「お母さん、今まで住ませてあげたんだから感謝してくださいね」
普段は「お母さんがいてくれて助かります」と笑っていた女性とは思えない声だった。
節子は静かに悟った。
これが、あやかの本当の姿なのだと。
そして最後の希望だった息子・大介を見る。
「大介……あなたは違うわよね?」
しかし返ってきた言葉は、節子の心を完全に打ち砕いた。
「母さんには悪いけど、これも家族のためだから」
その瞬間、節子の中で何かが終わった。
30年間、家族のために尽くしてきた日々。
毎朝5時に起きて作った弁当。
熱を出した孫を一晩中看病した夜。
掃除、洗濯、買い物。
さらに毎月の生活費や孫の習い事まで支えてきた。
それらすべてが、息子夫婦にとっては「当然のこと」だったのだ。
「貧乏人」
その一言で、節子の存在価値まで否定されたようだった。
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引用元:https://www.youtube.com/watch?v=5bJzsI41UMM,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]