同僚の結婚式が行われるのは、駅前の一流ホテルだった。私はその日、白い封筒を鞄に入れ、式場へ向かっていた。正直に言えば、胸の内は穏やかではない。招待状など受け取っていないからだ。それでも私には、どうしても確認しなければならない理由があった。
数日前、社内の総務から「当日、受付周りが混みますので、関係者は時間に余裕を持ってください」と連絡が回った。
私はそこで初めて、同じ日の同じ会場に“私の名前”で予約が入っていることを知った。総務が善意で照会してくれたのだ。「あなたも式でしたよね?」と。
——式、とは何のことか。私自身が、そう問いたくなった。
実は私は、その日、結婚式を挙げる予定だった。相手は社外の人で、社内には最低限しか知らせていない。だが、会場も時間も、あまりに同僚の式と一致しすぎていた。偶然では片づけられない。しかも、ホテル側の担当者が電話で言ったのだ。「新婦側のご友人名簿に、あなたのお名前が入っております」と。
私は嫌な予感を抱えながら、会場ロビーに足を踏み入れた。花の香り、タキシードの黒、ドレスの光沢。祝福の空気が満ちる中で、私は自分の名前が貼られた席札が存在するのか、それとも——別の何かが起きているのかを確かめる必要があった。
その時、背後から甲高い声が響いた。
「え、ちょっと!あんた招待してないのになんで来るのよ!ウケる!」
振り返ると、花嫁になる同僚が立っていた。社内では愛想が良いのに、今は露骨に嘲笑を浮かべている。周囲の友人らしき女性たちも、面白がるようにこちらを見た。私は一瞬で悟った。これは偶然ではない。最初から、見世物にするつもりだったのだ。
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