三連休の最終日、帰省先から自宅へ戻る飛行機の中だった。
座席に座った途端、二歳の息子は落ち着きを失い始めた。離陸前の独特の緊張感、エンジン音、狭い空間――大人でも落ち着かない状況だ。ましてや、まだ「静かに座っている」という意味を完全には理解できない年齢である。
シートベルト着用サインが点灯し、機内が揺れ始める。
息子は不安からかぐずり出し、足をばたばたと動かし始めた。その小さな靴が、前の座席に当たる。
トン、トン、トン。
最初は軽い接触だった。しかし泣き声とともに動きが激しくなり、やがて「ガン、ガン」とはっきり分かる衝撃音に変わった。
私は慌てて足を押さえた。
「やめようね、痛いよ」
小声で必死に宥める。しかし、二歳児に理屈は通じない。ぐずりはむしろ強くなった。
そのとき、前の座席の女性がゆっくりと振り返った。
「さっきからずっと当たってるんですけど」
低く抑えた声だったが、明らかに苛立ちが混じっている。
「すみません、すぐにやめさせます」
私は何度も頭を下げた。しかし、女性は続けた。
「公共の場ですよね? ちゃんと見ててもらえます?」
胸の奥がカッと熱くなる。
(小さい子供のすることなんだから、大目に見てよ!)
思わずそう言い返したくなった。実際、心の中では強く反発していた。
二歳児だ。まだ完璧にコントロールできるわけがない。泣きたくて泣いているわけでもない。
だが、同時に別の思いもよぎった。
前の女性にとっては、理由など関係ない。
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