あの日の電話を、俺は一生忘れない。
「奥様が交通事故で……」
病院に駆けつけたとき、もう間に合わなかった。嫁は即死だった。まだ三十歳にもなっていなかった。
残されたのは、二十九歳の俺と、十七歳の娘――正確には、嫁の連れ子だ。
初めて会ったとき、彼女はまだ小学三年生だった。小さな手で俺の服の裾をつかみ、「おじさん、ママと結婚するの?」と真っ直ぐな目で聞いてきた。
その子が、もう高校二年生になっていた。
葬儀が終わった夜、俺は娘と二人きりで食卓に座った。沈黙が重い。
「……俺と、これからも一緒に暮らすか?」
震える声でそう聞くと、娘は涙をこらえながら頷いた。
「お父さんと、いる」
血はつながっていない。それでも、俺にとっては間違いなく“娘”だった。
だが、現実は甘くなかった。
四十九日を過ぎた頃、嫁側の親戚が集まり、俺に言った。
「二人で住むのは、さすがに問題があるんじゃないか」
「もう高校生とはいえ、若い男と同居は世間体が……」
言葉を選んでいるようで、はっきりと疑っていた。
「うちで引き取ることも考えている」
俺は拳を握りしめた。
「娘は、俺といると言っています」
「それは情に流されているだけだ。将来を考えれば、母方の親族と暮らすほうが安心だろう」
まるで、俺が危険な存在であるかのような扱いだった。
その夜、娘に話すと、彼女はきっぱり言った。
「行かない。お父さんといる」
その一言に救われた。だが同時に、覚悟も決まった。
俺は仕事を増やし、家事を覚え、弁当を作った。思春期の娘との距離感に悩みながらも、余計な誤解を生まないよう常に気を配った。
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