それは、何の変哲もない休日の午後だった。
近所の文房具店に、小学生の娘と二人で立ち寄った。店内はこぢんまりとしているが、昔からある地域密着型の店で、学用品や事務用品が所狭しと並んでいる。娘は新学期用の消しゴムを選び、レジへ向かった。
「これ、お願いします」
差し出したのは、透明なケースに入ったキャラクター付きの消しゴム。値段は200円。
娘は財布から一万円札を取り出し、少し誇らしげに店員へ渡した。
レジに立っていたのは若い男性店員だった。無言で紙幣を受け取り、レジを打ち、トレーに硬貨を置いた。
「800円のお返しです」
その言葉に、私は一瞬耳を疑った。
「……800円?」
頭の中で計算する。消しゴムが200円。一万円札を出したのなら、本来のお釣りは9,800円のはずだ。
私はトレーの中を見つめた。確かに置かれているのは、500円玉1枚と100円玉3枚。合計800円だけだ。
「お釣り、間違っていませんか?」
できるだけ冷静に、そう尋ねた。
すると店員は眉をひそめ、少し苛立ったような口調で言った。
「は? 合ってますけど」
「一万円出しましたよね?」
「いえ、千円札でしたよ」
空気が一瞬で張り詰めた。
「嘘だ! あんたが盗ったんだろ!」
思わず声を荒げてしまった。娘が隣で驚いた顔をしているのが視界に入る。それでも、怒りが先に立った。
一万円札を出したのは間違いない。娘が財布から取り出すのを、私は確かに見ていたのだ。
店員も声を強める。
「お客様、言いがかりはやめてください。レジの金額は合っています」
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