義姉が我が家に三日間滞在したのは、夫の実家の法事の帰りだった。気さくで明るい人ではあるが、どこか他人の境界線に鈍感なところがある。今回も「ホテル代がもったいないから」と当然のように泊まる流れになった。
滞在最終日の朝、小学三年生の娘が私のところへ来た。少し困った顔をしている。
「ママ……あのね、昨日、伯母ちゃんに300円貸したの」
聞けば、コンビニに行った際に小銭が足りないと言われ、娘の貯金箱から出した300円をそのまま渡したらしい。「あとで返すね」と言われた、と。
その話を聞いたとき、胸に小さな違和感が走った。大人が、子どもに借りるのか? しかも自分から返していない?
私は「帰る前にちゃんと言ってごらん」と娘に伝えた。お金の額ではなく、約束の問題だからだ。
玄関で荷物をまとめ終えた義姉が「じゃあねー」と明るく手を振る。そのタイミングで、娘は小さな声で言った。
「あの……300円……」
義姉は一瞬きょとんとした顔をし、それから笑った。
「ああ、あれ? たかだか300円でしょ?」
その言い方に、空気が凍った。
娘は俯きながら、それでも続ける。
「でも……返すって言ってたから……」
義姉はため息をつき、財布を取り出した。そして100円玉を三枚、指で弾くように取り出すと――
「はいはい、これでいいんでしょ?」
チャリン、と軽い音を立てて、娘の足元へ向かって投げた。
その瞬間、私の中で何かが切れた。
「その返し方はなんなの!?」
思わず声が大きくなる。
義姉は肩をすくめ、わざとらしく語尾を伸ばした。
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