それは、卒業式を三日後に控えた夜のことだった。
夕食の片づけを終えた頃、一本の電話が鳴った。表示された番号は、小学六年生の娘の学校だった。
「○○小学校の担任の△△です」
落ち着いた声だったが、どこか言いにくそうな含みがあった。
「卒業式当日なのですが……娘さんと、もう一人の女児にお願いがありまして」
嫌な予感が胸をよぎる。
「クラスに障害を持つ男児がいるのはご存じですよね。
その子の世話係を、式の間とその後の時間、1日お願いしたいのです」
一瞬、言葉の意味が理解できなかった。
「世話係……ですか?」
「はい。移動の補助や、場合によっては排泄のフォローもありますので、汚れても構わない服装で来ていただけると助かります」
私は思わず受話器を握り直した。
卒業式は、六年間の集大成の日だ。娘は友達と写真を撮るのを楽しみにしていたし、白いブラウスに紺のスカートを何度も鏡の前で合わせていた。
それなのに――。
「なぜ娘が、その役目なのでしょうか」
できるだけ冷静に尋ねる。
担任は少し間を置いて答えた。
「娘さんは責任感が強く、優しいお子さんです。それに、その男児も娘さんには懐いていて……」
つまり、“断りにくい子”だから選ばれたのではないか。
「他に支援員の方は?」
「当日は式典対応で手が足りません。正直に申し上げて、学校としても余裕がないのです。嫌なら……無理にとは言いませんが、その場合は保護者の方に付き添っていただくことになります」
その言い回しに、私は強い違和感を覚えた。
嫌なら、こちらが負担を背負え、と。
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