それは、ある土曜日の午前中のことだった。
インターホンが鳴り、出てみると隣家の奥さんが立っていた。どこか落ち着かない様子で、しかしどこか「当然」という表情も混じっている。
「実はね、息子が車を買ったんですけど……予定していた月極駐車場が急に借りられなくなってしまって。納車ができないのよ。かわいそうで……」
そこまで聞いて、私は嫌な予感がした。
「それで……?」
「お宅の駐車場、少しの間だけ置かせてもらえないかしら? ほんの数日でいいの」
我が家は戸建てで、敷地内に一台分の駐車スペースがある。今は車を持っていないが、将来的に購入する予定があり、空いているからといって“自由に使っていい場所”ではない。
私は即座に答えた。
「すみません、無理です」
奥さんは一瞬固まった。
「え? でも今使ってないわよね?」
「使っていなくても、うちの敷地ですから。トラブルになるのも困りますし」
できるだけ穏やかに伝えたつもりだった。しかし奥さんの顔色が変わる。
「そんな冷たいこと言わなくてもいいじゃない。息子、せっかく新車を買ったのに納車できないのよ? かわいそうでしょう?」
“かわいそう”という言葉を盾にされても、こちらの事情は無視なのか。
「申し訳ありませんが、お断りします」
私はそれ以上言葉を重ねず、会話を終えた。
――それで終わるはずだった。
ところが翌日、家の前に見慣れない大型トラックが停まっていた。車両運搬車だ。
嫌な予感が現実になる。
作業員が降りてきて、我が家の駐車スペースを指さした。
「こちらで間違いないですか?」
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